「パパの電話を待ちながら」(ロダーリ)

「それでいいんだよ」と優しく語りかけてくる

「パパの電話を待ちながら」
(ロダーリ/内田洋子訳)講談社文庫

ある若いエビが、
仲間が全員後ろ向きに
歩くことに疑問を覚え、
前に向かって歩きたいと願う。
練習のかいがあり、若いエビは
前に歩けるようになる。
しかし、それを知った家族は
彼を勘当する。
彼は胸をはって
外界へと飛び出す…。
「進め!若エビ」

前回取り上げた「逃げる鼻」が
収められている作品集です。
全56編、短編集というよりも
ショート・ショートです。
単身赴任の父親が、
毎晩娘に電話をして
お話を聞かせるというコンセプトで
編み出された一冊です。
この若エビに対して作者は次のような
メッセージを添えています。
「彼は、成功するでしょうか?
 世の中の曲がったことを
 まっすぐに
 正していけるでしょうか?
 私たちにはわかりません。
 なぜなら、若エビは
 初めと変わらぬ勇気と決意で、
 相変わらず前に向かって
 歩き続けているからです。
 私たちにできるのは、
 心から応援することだけです。」

56編どれもこれも
ユーモアに溢れていて、かつ
優しい気持ちになれる作品ばかりです。
ブラック・ユーモアなどありません。
私のお気に入りをいくつか紹介します。

町のはずれで
三方に分かれている道。
一本目は海へ、二本目は都会へ、
三本目は
どこにもつかない道だった。
マルティーノは三本目が
なぜどこにもつかない道なのか
疑問に感じる。
彼は町を出て、
迷わずその道を選び、
歩き始めた…。
「どこにもつながってない道」

彼が進んだ道の先には、
立派な城があり、
多くの財宝をもらい受けて
彼は帰ってくるのです。
その話を聞き、
町の人々はこぞって三本目の道を
進んでいくのですが、
誰も城に辿り着くことは
できないのです。
「宝物は、
 最初に道を切り開いた者にだけ
 用意されていたのです。」

ジャコモは間違ったことを
見聞きすると
おでこの後ろが
燃えるように輝く。
町はいつしか冷酷な独裁者が
圧政を敷くようになり、
誰も自由に発言できなくなる。
しかし、不正を憎む
ジャコモの気持ちが
おでこに表れているのを見て…。
「クリスタルのジャコモ」

人々はジャコモの姿に
希望を感じるのです。
やがて独裁者はジャコモをとらえて
牢獄へ入れます。
すると、彼を閉じ込めた牢獄すべてが
透明に変わり、眩い光が
煌々と放たれます。
「真実は、何よりも強いのです。
 真実は、昼間の灯りより明るく、
 どんな嵐より強いのです。」

登場人物たちは総て「異質」です。
同質性を求める集団とは
相容れないような存在です。
しかしそうした者に対して
「それでいいんだよ」と
優しく語りかけてくるような
作品集です。
この本のように、
毎晩父親から語りかけられる子どもは、
どんなに幸せでしょう。
自分の在り方に、大きな自信を持って
育っていくはずです。
子どもたちに、
そして日々の生活に疲れ果てた
大人の貴方にお薦めします。

(2020.7.13)

gm_pangtondevilによるPixabayからの画像

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